1.肺における感染防御機構の破綻と感染
a.身体全体の感染防御
b.気道,肺の局所的な防御機構−粘液線毛クリアランス,マクロファージ
(mucociliary transport system)
ex.Primary Ciliary Dyskinesia:先天的系統的な線毛機能不全で慢性気道
感染症を繰り返す.慢性副鼻腔炎,滲出性中耳炎を合併しやすい.
2.呼吸器感染症の症状
咳嗽,喀痰(膿性痰),発熱,胸痛,血痰,呼吸困難など
詳しく病歴を聴取する事:現病歴,基礎疾患の有無(副鼻腔炎等sino-bronchial synd.),
動物,鳥との接触歴,旅行歴(温泉;レジオネラ),家族歴(結核,マイコプラズマ),
患者背景(職歴,同性愛),妊娠/出産(結核;気管支結核)
3.細菌性呼吸器感染症の起炎菌
1980年頃までは肺炎球菌が最多,現在は急性感染はマイコプラズマ,肺炎クラミジア増加
慢性下気道感染は緑膿菌,インフルエンザ菌が増加.
喀痰の性状と起炎菌
黄色調−黄色ブドウ球菌(最近はMRSAにも注意)
緑色調,免疫能低下−緑膿菌(抗生剤投与を繰り返した
気管支拡張症,DPBによくみられる)
鉄錆色,健康人にも発生−肺炎球菌(高熱,呼吸困難著明)
粘稠な糸ひく赤色痰−肺炎桿菌(クレブシエラ)
悪臭,喀痰量多い −嫌気性菌(放置すると4層に分離する)
4.胸部X線所見
air bronchogram, air alveogram, interstitial patern等
気管支肺炎−air bronchogram, air alveogramを呈し易い.
ウイルス性肺炎−interstitial patern(スリガラス様),区域に限定しない広がり.
結核−空洞形成,中枢性収束,粒状(粟粒結核),糖尿病患者では例外あり(肺炎様)
5.各論
a)レジオネラ肺炎
Legionella属による(L.pneumophilaが多い).
古いビルの貯水漕などに発生し易い.乾性咳嗽が初発であるが,次第
に膿性痰となり,精神,神経症状出現すると本症に特徴的.下痢も合併する.
診断は(1)菌の分離
(2)蛍光抗体法による検体中の菌の証明
(3)血清抗体価測定 (4)DNAprobe法,MH法(早期診断に有用)
適切な治療をしないと1週以内に死亡することが多い.
エリスロマイシン,リファンピシン,ニューキノロン,テトラサイクリン等が有効
b)クラミジア肺炎
(オウム病)
オウム病はChlamydia psittaciを病原体として鳥(インコ,ハト等)からヒト
に感染するが,肺のみならず多臓器障害を伴うことあり(チフス型)
胸部X線で淡いスリガラス状陰影が肺門から扇状に広がる(異型肺炎様)
問診が大切:患者の接触した鳥に症状を認めたり死亡したりしたら強く
疑う.発熱,呼吸器症状,炎症反応,肝機能障害!,CPK上昇
診断は(1)菌の分離同定,(2)血清抗体価,(3)蛍光抗体法
治療:テトラサイクリン,マクロライド,ニューキノロン,リファンピシン
(肺炎クラミジア)
最近,鳥を介しない人に感染(ヒト-ヒト感染)するChlamydia pneumoniaeが認識されてきた.
治療はオウム病と同じ.軽症〜重症,若年〜高齢者にみられる.
c)マイコプラズマ肺炎
流行年(オリンピックの年)があったが最近は毎年流行している.
小児,若年者に発症しやすいが,高齢者にもみられる.家族発生しばしばあり.
咳嗽,発熱が主症状.寒冷凝集素価,マイコプラズマ抗体価上昇で診断.
胸部X線は浸潤性陰影が主体,小児では肺門リンパ節腫大を1/3に認める.
マクロライド,テトラサイクリンが有効
d)カリニ肺炎(ニューモシステイスカリニ肺炎)
Pneumocystis carinii原虫による代表的な日和見感染.
AIDS患者,成人T細胞白血病ではカリニ肺炎が初発症状となること多い.
無γグロブリン血症の新生児,白血病,リンパ腫,膠原病,臓器移植者
に併発. 多くは長期のステロイド投与後に発生.
胸部X線:微細な両側肺門周囲に広がるびまん性陰影.次第に肺尖,肺底部へ
診断:喀痰,肺胞洗浄液,肺組織よりP.carinii嚢子の検出.PCR法が有力
治療:ST合剤の経口投与またはpentamidineの静脈内投与
e)肺アスペルギールス症
(1)肺アスペルギローマ:肺結核後の空洞内に菌球を形成
(2)アレルギー性気管支肺アスペルギールス症:ABPA
副腎皮質ステロイドの全身投与が有効
(3)アスペルギールス肺炎,肺膿瘍:侵襲型肺アスペルギールス症
殆どが日和見感染で免疫能低下例に発症,イトリゾールが有効
f)肺結核
結核の死亡率は著減したものの,最近減少から増加に転じた.
これは高齢者結核,外国人労働者の増加,免疫不全例の結核(AIDS等)による.
胸部X線所見:S1,S2,S6に好発し,空洞を形成する.
但し糖尿病は非特異的.
低栄養,ストレス,妊娠出産育児は肺結核の増悪因子となる.
診断:塗抹(ガフキー号数),培養を3日間連続で施行,ナイアシンテスト
治療:最近は短期化学療法(6-9ヶ月)が主体になってきた.
ex. INH+RFP+SM+PZAを2ヶ月,その後INH+RFP+SMを4ヶ月
抗結核薬の副作用 INH:末梢神経炎,肝障害
RFP:肝障害,過敏症,胃腸障害
SM,KM:第8神経障害
EB:視力障害
PZA:肝障害,高尿酸血症
医師は、結核患者であると診断したときには、2日以内に保健所に届けなければならない.
病院の管理者は、結核患者が入・退院したときは、7日以内に保健所に届けねばならない.
(結核予防法22条、23条)
g)非定型抗酸菌症(AM症)
免疫不全例に発症しやすく,AIDSに続発する2次感染症として知られる.
Mycobacterium avium-intercllullare complex(M. avium complex)は有効な
薬剤がない.外科療法が適応になることあり.検出はPCR法が有力.
M.kansasiiは抗結核薬が有効.
h)その他の呼吸器感染症
ウイルス性肺炎
(1)気道ウイルスによる肺炎:乳幼児に多く,風邪の流行に一致する.
最近,インフルエンザによる高齢者肺炎が問題化.
A型(ソ連型,香港型),B型インフルエンザあり,細菌性2次感染注意
インフルエンザにはザナミビル,アマンタジン(発症3日以内に使用すること)
(2)水痘肺炎:水痘の経過中に発症.
胸部X線上両側びまん性の結節性浸潤影を示し,特徴的な皮疹がみられる.
(3)単純ヘルペスウイルス肺炎:新生児の肺炎として重要で,高熱と急速に
進行する呼吸不全が特徴.アシクロビルが有効
(4)サイトメガロウイルス肺炎:免疫不全例に発症.
胸部X線上両側びまん性の間質性浸潤像.高度の呼吸困難と低酸素血症が出現. 診断は血清抗体価測定.ガンシクロビルが有効.
嫌気性菌感染症 壊死性肺炎,肺膿瘍,膿胸
Bacteroides spp.にはクリンダマイシン,イミペネム,クロラムフェニコールが有効
その他の嫌気性菌にはペニシリンGが有効
6.empiric thrapy
背景:本来,化学療法は細菌培養検査にて起炎菌を同定してから,最も適した抗菌剤を
用いるべきである.しかし,起炎菌の培養,同定には2日以上を要し,止むをえず起炎
菌を同定しないまま化学療法を開始する場合がある.
empiric thrapyとは
緊急的化学療法で、病状、患者背景、感染部位等から広く科学的に起炎菌を推定し、推
定した起炎菌に対して最も適切な抗菌剤を投与し、起炎菌決定は同時平行で実施する.
結核緊急事態宣言平成11年7月26日
結核は、かつて我が国において国民病と言われる時代がありましたが、国民の生活水準の向上や医学・医療の進歩、結核対策に携わってこられた関係者の献身的な努力により、以前に比べて大きく改善してきました。このような状況の下、一般の国民のみならず医療関係者や行政担当者までもが、結核は既に我が国で克服された過去の病気であると錯覚してきたのではないでしょうか。結核は決して過去の病気ではありません。世界保健機関は、平成五年に結核の非常事態宣言を発表し、加盟各国に結核対策の強化を求めています。我が国においても、平成九年で約四万二千人の新規結核患者が発生し、約二千七百人が結核で亡くなるという我が国最大の感染症であります。さらに近年、多剤耐性結核の問題、多発する学校、医療機関、老人関係施設等における結核集団感染の問題、高齢者における結核患者の増加の問題、在日外国人における結核患者の問題等、緊急に対応を図らなければならない重要な課題が出現しております。また平成九年には、こ れまで減少を続けてきた新規発生結核患者数が三十八年ぶりに、罹患率が四十三年ぶりに増加に転じたことが明らかになっており、今後も引き続いて増加していく危険性が指摘されています。現在の我が国の結核の状況は、今後、患者数が増加し多剤耐性結核がまん延する等、再興感染症として猛威をふるい続けるか否かの分岐点に立っており、まさに今日、医療関係者や行政担当者を含めた国民一人一人が結核を過去の病気として捉えるのを改め、国民の健康を脅かす大きな問題として取り組んでいかなければ、将来に大きな禍根を残すこととなります。以上のことから、厚生省として、ここに結核緊急事態を宣言し、関係省庁、地方自治 体や関係団体とともに、再興感染症としての結核問題の国民への普及啓発、健康診断を始めとする結核予防法に基づいた各種施策、結核発生動向調査事業や結核特別対策促進事業を強力に推進するとともに、国立療養所を拠点とする多剤耐性結核等への対応を含む専門医療体制を充実してまいります。国民各位や関係団体等におかれても、結核の問題を再認識し、次のような対策の推進に取り組まれることを要請いたします。
一 地方自治体におかれては、結核対策の最前線である保健所等の結核対策機能の強化、結核患者が発生した場合の危機管理の観点からの迅速かつ的確な対応、健康診断の実施の徹底等を図っていただきたいこと。
一 医師会及び病院関係団体におかれては、傘下会員等に対して、結核の基本的知識の再確認、結核診療技術の向上、院内感染の予防、結核患者が発生した場合の適切な対応に向けての周知等を図っていただきたいこと。
一 老人関係施設を始めとする施設の関係団体におかれては、傘下会員等に対して、施設内感染の予防、結核患者が発生した場合の適切な対応に向けての周知、健康診断の実施の徹底等を図っていただきたいこと。
一 結核に関する研究機関や関係学会におかれては、結核の診断、治療等に関する研究と研修のより一層の推進を図っていただきたいこと。
一 結核対策に取り組んでおられる各結核関係団体におかれては、正しい知識の普及を始めとする結核対策の推進により一層取り組んでいただきたいこと。
一 国民各位におかれては、結核に関する正しい知識を理解され、健康診断を積極的に受診されるとともに、咳が続くような場合には風邪だと思い込むことなく医療機関を受診される等、結核の予防に努めていただきたいこと。
結核が国民病といわれていた時代に逆戻りさせず、国民の健康を結核の脅威から守っていくために、厚生省を始めとして関係省庁や地方公共団体、各種関係団体、国民一人一人が結核の問題を再認識し、我が国が一丸となって結核対策に取り組んでいくことが求められています。私は、国民の一人一人が結核対策に御協力いただくことにより、我が国の結核対策は必ず成功し、結核を克服することができると確信いたしております。重ねて皆様の御理解と御協力をお願いいたします。
平成11年7月26日
厚生大臣 宮下創平